第11回 12誘導心電図伝送を考える会 抄録集

抄録集 目次

目次

(仮) 12 誘導心電図データを地域で共有する事のメリットと解決しなければならないセキュリティー問題

【スポンサー ドセミナー GE ヘルスケア・ジャパン株式会社 】10 :00 -10:50

芦原 貴司
滋賀医科大学部附属病院 情報総合センター/医療情報部/マルチメディアセンター

12 誘導心電図のデータを地域で保管、共有することは、病院前心電図を受信し、過去の心電図と比較する事で、1 枚の心電図では見えてこなかったものがあぶり出されることがある。情報はあればある程いいが、それらを比較するにも時間とスキルが必要となる。これらのデ ータを Raw Data として取得、保存出来れば、自動で差分表示出来るシステムを活用し、同じ評価基準で情報を得る事が出来る。これらのデータは医師の意志決定を強くサポートするものであるが、個人情報となるため、セキュリティー面に配慮が必要となる。医療情報の観点から、データの取扱いと解決方法について考えてみた。


(仮)病院前心電図の自動解析の重要性と導入するための課題

【スポンサードセミナー GE ヘルスケア・ジャパン株式会社】10:00-10:50

川口竜助
市立奈良病院 救急・集中治療科

病院前心電図を事前に把握する事で、Door to Balloon time の短縮など、受け入れ前に治療戦略を考える時間的余裕が生まれる事は救命率の向上に大きく寄与するものである。現状では画像伝送が主流だが、心電図波形データを伝送し、受け入れ側の Viewer で自動解析 する事が出来れば、救命救急医の心電図判読を強く支援し、記録を残す意味でも、解析結果を詳細データと共に保存出来る事は重要なポイントとなる。当院では病院前心電図から受け入れ後、治療後、病棟・退院時まで任意に得られた 12 誘導心電図データは、電子カルテから専用 Viewer で参照可能にするべく、機器整備を検討している。


搬送中の症状再発時に 12 誘導心電図伝送で早期治療につなげることができた急性心筋梗塞の一例

【一般演題】11:00-11:50

前田悠輔 1)、伊藤元也 1)、上原大 1)、石倉健2)
1)津市消防本部
2)三重大学医学部附属病院 救命救急・総合集中治療センター

【背景】当メディカルコントロール協議会には急性冠症候群疑い症例に対応するためのプロトコルがあるが、適応症例のうち緊急経皮的冠動脈形成術(PCI)となるのは 15~20%であり、極度のオーバートリアージを避けることを意識して活動することが多い。
【症例】60 歳代男性。
【現病歴】通報 10 分前に初めての胸部違和感と呼吸困難を認め、家族に相談し、救急通報となった。覚知から 8 分後に傷病者に接触したところ、症状が消失していたために傷病者は不搬送を希望した。初期評価では顔面蒼白、末梢冷感と全身発汗を認めた。初発であることと初期評価結果から救急搬送による受診を強く勧めて観察を行った。バイタル測定では呼吸数20回/分、血中酸素飽和度 97% (大気下)、血圧 右174/89mmHg、左 166/103mmHg、脈拍 60 回/分 整、意識清明、体温 36.2 度、12 誘導心電図では洞調律で ST 変化を認めなかった。循環輪番病院へ収容依頼し受入れ決定した。現場出発 12 分後に突然徐脈、不穏症状が出現した。12 誘導心電図では、ST 上昇を II、III、aVF 誘導で認め、収容病院へ伝送して電話連絡した。不穏となってから 8 分後に病院収容となった。
【病院収容後の経過】循環器チームが立ち上げられており、急性心筋梗塞の診断で緊急経皮的冠動脈形成術が施行された。その後の経過は順調で独歩退院となった。
【考察】本症例は症状消失していたにも関わらず心疾患プロトコルを適応できたこと、搬送中の 12 誘導心電図で新たに ST 上昇が出現したことに気づくことができ伝送したことが、早期決定的治療につながったと考えられる。現在、救急救命士は病院収容後や事後検証で 12誘導心電図判読を学習しているが、さらに教育の質を上げていくことは予後改善につながる可能性がある。


12 誘導心電図伝送における当市の現状と課題

【一般演題】11:00-11:50

三河内 伸一郎 1、西田 勝太 1、藤森 博之 1、谷村 宗義 2 1 名張市消防本部、2 名張市立病院

【はじめに】
当市は、三重県の西部に位置し奈良県と隣接する人口約 75,000 人の地方都市である。当消防本部は、4 隊の救急車を運用し、救急出場件数は年間約 4,000 件となっている。医療圏は、中勢伊賀地域に属し、平日の日中は名張市立病院(以下「市立病院」という)、夜間休日は、市立病院と共に隣接の伊賀市の2医療機関で二次輪番医療体制を担っている。12 誘導心電図伝送については、急性冠症候群(以下「ACS」という)の治療において、発症から再灌流までの時間は、患者の予後を左右するとても重要な要素であり、伝送システムでは Door to balloon time (以下「DTBT」という。)を短縮する効果があることが知られている。12 誘導心電図伝送については、令和3年 8 月から市立病院と共に運用を開始し、約 2 年が経過した。今回、その効果を検証し、当市における現状と課題について考察する。
【方法】
12 誘導心電図伝送の導入前と導入後、それぞれ約 2 年間に市立病院へ搬送し緊急カテーテル治療を施行された ACS 患者(転院搬送を除く)について、搬入からカテーテル検査室(以下、「カテ室」という。)入室までの時間と DTBT を比較検討した。
【結果】
上記に該当する患者は、導入前 13 人、導入後 12 人だった。
搬入からカテ室入室までの時間の平均値が 64.2 分から 35.2 分となり 29 分間短縮し、DTBTについても 99.9 分から 81.9 分と 18 分間短縮した。
【考察】
現場で 12 誘導心電図を測定することが可能となり、早期に救急隊が ACS を疑うことができること、また、その心電図を搬送先医療機関が確認し、早期に準備を開始できることが時間短縮に至った要因と考えられる。また、当消防本部では、ドクターヘリ要請や地域外搬送の際に 12 誘導心電図伝送を行った事案もあり、地域内での対応が困難な場合でも患者にと っても 12 誘導心電図伝送は有益と考えられる。


救急映像等伝送システム導入経緯について

【一般演題】11:00-11:50

堀 善哉
四日市市消防本部 消防救急課 救急救命室

【はじめに】
四日市市消防本部は令和 5 年 10 月から 12 誘導心電図伝送を含む救急映像等伝送システムの運用を開始した。

今回、システムを導入することとなった経緯および有用性を感じた症例について紹介する。
【導入経緯】
令和 2 年 4 月、四日市市の将来を見据えた総合的・計画的なまちづくりの指針「四日市市総合計画 2020~2029」を策定した。この計画において、迅速な救急搬送と医療機関の受け入れ体制の確保により、1秒でも早く、救える命を救うことを目的として、リアルタイムに映像等を伝送するシステムの整備、医療機関との連携体制の構築を取組むこととなった。
当消防本部では、伝送システムを運用している消防局(本部)への視察を行い、導入するシステムについて検討を進め、機器調達、医療機関との調整等を行い、実証試験で検証した後、令和 5 年 10 月から運用開始した。
【症例】
症例1:胸痛、呼吸苦を訴える急病事案。
早期の搬送を念頭に 12 誘導心電図伝送を実施。搬送途中に容態変化(CPA)。継続的な心電図伝送を行ったことで受入れ医療機関においても受信モニター上で情報が共有でき、院内での受け入れ態勢がとれたことにより、心カテ室へ早期搬入でき、早期治療開始に繋がった。

症例 2:作業中、突然の意識消失を発症した急病事案。
救急隊より ST 変化および徐脈、冷汗の情報から、受入れ医療機関の救急医から 12 誘導心電図測定および体位管理、AED パッドの装着等の活動修正、助言が早期に実施された。
【今後】
今後、12 誘導心電図伝送を含めた映像等の伝送システムを使用したことによる奏功事例、生存率・社会復帰率の変化、医療機関収容時間の推移について調査していく。


12誘導心電図伝送デバイス導入から現在までの使用状況

【一般演題】11:00-11:50

小山内 健介
弘前地区消防事務組合

はじめに
2015年から12誘導心電図伝送機能を有する除細動器旭化成ゾールメディカル社製 Xシリーズ(X シリーズ)を導入し、2017年からスマートフォンが救急車に配備され、さらに2018年から医療機関連携アプリ「Join」が導入されたことにより、医療機関への心電図伝送が開始された。筆者は除細動器購入した2015年から2022年3月まで心電図伝送装置配備に携わり、翌4月から現在は所属異動により救急現場で使用する立場とな った。導入から現在の使用状況について報告する。
配備状況
2015年から現在にかけて弘前消防が運用している救急車15台のうち14台が12誘導心電図伝送可能となっており、2024年3月には全ての救急車に配備予定である。
測定及び伝送状況
配備数の増加に乗じて伝送症例数も増加している。特に2021年から Join と X シリーズが連動し X シリーズでの心電図伝送操作のみで一度に複数の医療機関へ伝送可能となったことにより、測定および伝送件数の増加が一層顕著となった。
使用しての所感
現場到着し傷病者に接触してから測定する判断をすることを想定していたが、実際は救急隊が出動指令を受けてから出動途上に通信指令センターから送られてくる情報により使用者自身によりキーワード化され、現場到着前から12誘導心電図測定を判断するようにな った。また、心疾患をルールアウトするためのツールとしても使用を考えるようになった。測定作業については、隊員間で協力しながら実施しているため負担は感じない。
今後の使用について
弘前消防では出動途上に聞かれる特定のキーワードが出た時点や傷病者接触時の初期評価の時点における12誘導心電図測定および伝送がルーチン化された。今後も使用頻度が増えていき、救急隊による適切な判断と適切な医療機関搬送に寄与すると確信する。


救急隊員を対象とした PACC(Pre-hospital Acute Cardiac Care)コースの概要と準備状況

【一般演題】11:00-11:50

佐藤直樹
かわぐち心臓呼吸器病院 循環器内科

本邦において脳卒中や心臓病を含む循環器病で年間約 31 万人以上が死亡し、循環器疾患が最も医療費を費やしている。この状況を改善するために「健康寿命の延伸等を図るための脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る対策に関する基本法」が 2018 年 12 月 14 日に公布された。さらに「健康寿命の延伸等を図るための脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る対策に関する基本法の施行期日を定める政令」が公布され、厚生労働省健康局から都道府県知事へその趣旨が通知されている。基本法には循環器病に対する総合的な施策が記載されており、救急救命士及び救急隊員についても、循環器病の病態鑑別や研修機会の確保の必要性が明記されている。その後、基本法に基づき循環器病対策推進基本計画が閣議決定され、都道府県の実情に合わせた計画を策定し実施していくこととなっている。しかし、総務省消防庁「令和 2 年版 救急救助の現況」によれば、循環器で搬送された数は全体の 8.1%であるが、疾病分類別の重症度では 2 位(21.4%)であり、死亡率は他の疾患に比べ明らかに高く、全死亡例の約 4 割が循環器疾患であり、さらなる対策および実践が必要である。このような背景を踏まえると、循環器救急疾患に対する病院前の対応を検討する必要がある。そこで、 2020 年に日本臨床救急医学会の中で構想された新しい試みとして、救急隊員のための病院前における循環器救急疾患の観察と処置の標準化(Pre-hospital Acute Cardiac Care 以下、 PACC )コースが設立され、日本循環器学会とともに循環器病患者の予後改善を図るためのトレーニングコースとして開始されることとなった。現在、コースのためのテキスト作成が、開始されている。12 誘導伝送に関する測定基準を含む PACC コースの概要と進捗状況について報告する。


病院前から医療機関への 12 誘導心電図伝送と救急現場 DX

【ランチョンセミナー 株式会社アルム】12:00-12:50

小山内 健介
弘前地区消防事務組合

1件の救急活動は、119通報を受信し必要に応じて口頭指導を行い、救急隊は傷病者に接触、観察開始、観察ツールとしてバイタル測定結果や12誘導心電図、現場状況、傷病者状況を伝送し、救急救命処置や応急処置をしながら医療機関へ搬送し医師へ引き継ぐ。この時点で救急隊と医療機関との実質的な関わりは終えるが、救急隊は事案に関する救急活動記録票を作成し、必要に応じて救急救命処置録、事後検証票も作成する。ここまでが1件の救急活動の実際であり、救急隊にとって12誘導心電図伝送は救急活動に一部に過ぎない。
救急活動に占める活動記録に要する時間は相当であり、DX 化が叫ばれる現在においても全国の消防本部の多くでは手書きで行われている。救急隊にとっては、1件の救急活動において「病院連絡」と「活動後の事務処理」が精神的、作業的負担である。弘前消防では作業的負担を軽減させるため、2017年から、高機能通信指令システムのパッケージソフトを用いた PC 端末入力による救急活動記録に切り替えた。このシステムを導入してからの救急隊が活動記録にかける時間は短縮したが、入力する PC 端末が消防署事務室に限られているため、前件の救急活動から引揚途上に別事案の出動指令がかかれば、現場に出動し傷病者を医療機関に搬送となり、帰署してから出動した件数分をまとめて作業しなければならず、事務処理負担に課題が残った。そこで2022年からはクラウドサーバー型の記録システムに切り替えた。これにより PC 端末に加えて、救急車積載のスマートフォンやタブレット端末からも入力が可能となったため、一の医療機関搬送を終えた直後から入力が可能となった。
最終的な救急現場 DX は、一連の救急活動を一つのシステムの中で完結させることである。


当院における SCUNA 心電図伝送 1000 件の歩み

【スポンサードセミナー 株式会社メハーゲン】14:00-14:50

小橋啓一
上尾中央総合病院 循環器内科

ST 上昇型心筋梗塞(STEMI)患者における Door to balloon time の短縮は、院内死亡率および 6 カ月死亡率の改善されることが報告されている。そのため、「日本蘇生協議会蘇生ガイドライン 2020」では、STEMI が疑われる成人傷病者へのプレホスピタル 12 誘導心電図(PH-ECG)伝送が推奨されている。しかし、PH-ECG の普及は現在も十分とは言えない状況である。
当院では近隣の 6 台の救急車に SCUNA 心電図伝送システムを導入し、2017 年 4 月から現在までに 1000 例を超える SCUNA 心電図伝送の実績を積み重ねてきた。伝送された全症例については、心電図の読影結果と搬送後の転帰を救急隊員にレポートし、フィードバ ックを行っている。本発表では、当院の SCUNA 心電図伝送取り組みの成果について詳述する。
SCUNA 導入前は、過去に開発された 12 誘導心電図伝送システムに対する不満や課題、さらに心電図読影に対する不安をもつ救急隊員の方々もいた。これらの懸念を解消するために、救急隊員の方々との信頼関係を構築しながら SCUNA 搭載車の件数を徐々に増やし、 2023 年 3 月には伝送件数が 1000 件に到達した。また、この時期には、SCUNA 心電図伝送を使用することで STEMI 患者の Door to balloon time および 30 日予後が改善されたという内容の英語論文の掲載も行った。さらに、SCUNA 心電図読影の解説本の出版も実現した。
プレホスピタル心電図伝送の普及にはまだ課題が残っている。特に、伝送用心電計を搭載した救急車の有無が救急サービスの不平等を生じさせ、行政側の支援における地域間の温度差や、病院主導での運用資金および協力体制の必要性が挙げられる。循環器救急体制の推進には、各地域の事情を考慮しつつ行政機関との協力が不可欠である。当院の SCUNA心電図伝送の歩みを報告し、現状の課題や、これからの目標を述べていく。


クラウド型心電図 SCUNA® 社会実装からレジストリまで
~臨床アウトカムと循環器救急の発展にむけて~

【スポンサードセミナー 株式会社メハーゲン】14:00-14:50

藤田英雄
自治医科大学附属さいたま医療センター 循環器内科

プレホスピタル心電図伝送は急性冠症候群、特に ST 上昇型心筋梗塞の予後改善に関する有用性については 10 年以上に亘ってエビデンスとして確立し、日欧米のガイドラインにおいても強い推奨となっている。しかしながら、わが国においては様々な要因によってその普及は進んでいない。普及の障害を解決し、更に地域における多施設での救急医療連携運用を容易とするために開発された SCUNA®は、クラウド上で 12 誘導心電図を瞬時に共有し、オンラインで情報交換できるシステムであり、臨床的エビデンスをもって 2015 年以来社会実装が進められてきたモダリティである。
2023 年現在、19 都道府県、344 医療機関で採用され、国内でも普及に従って全国各地域での臨床エビデンスが創出されてきた。更なるエビデンス創出のため、多施設共同研究SCUNA レジストリプラットフォームを設立した。SCUNA®による救急医療連携と臨床的アウトカムとの関連を検証し、背景となる因子を分析し、医療圏、地域特性等のさまざまな問題に答えられることが期待できる。本講演では、その概要と詳細について紹介する。


冠動脈二枝閉塞急性心筋梗塞の責任病変同定に病院前心電図伝送システムが有効であった難治性心室細動の一例

【一般演題】15:00-15:50

熊谷直人 1)、貝沼大輝 1)、仲田智之 1)、栗田泰郎 2)、星野康三 1)
医療法人永井病院循環器内科 1)、三重大学医学部附属病院循環器内科 2)

症例は 62 歳男性。発症 1-2 か月前から胸痛発作を自覚していた。朝 7 時から胸痛が出現し20 分以上持続したため救急要請した。救急隊による心疾患プロトコールが適応され 12 誘導心電図伝送を行い、当院へ救急搬送された。伝送心電図ではⅡ,Ⅲ,aVF 誘導の ST 上昇、 Ⅰ,aVL,V1-5 誘導の ST 低下を認め、ST 上昇型急性下壁心筋梗塞が疑われたため、緊急冠動脈造影に備えアンギオ室の立ち上げを行った。当院搬送直後に心肺停止(CPA)となり心電図では心室細動(VF)を呈していた。心肺蘇生術を開始し頻回の電気的除細動、薬剤投与を行うも心拍再開なく、アンギオ室で体外式膜型人工肺(ECMO)を用いて体外循環式心肺蘇生法(ECPR)を開始した(循環停止時間 42 分)。冠動脈造影検査を行うと左前下行枝近位部(LAD#6)と右冠動脈遠位部(RCA#3)に閉塞病変を認めた。VF は持続しており、 CPA 前の伝送心電図所見から RCA#3 を責任病変と診断し、引き続き冠動脈インターベンション(PCI)を施行した。RCA の再灌流に成功したところ、自己心拍が再開した。しかし、ショック状態が持続していたため大動脈内バルーンパンピング(IABP)も併用し LAD#6にも PCI を追加した。術後、両側内胸動脈損傷、縦隔内血種の合併が判明し、出血性ショックと診断。経カテーテル塞栓術による止血、輸血で対応した。第 2 病日に ECMO 離脱、第 3 病日に IABP 離脱、第 6 病日には抜管でき、蘇生後脳症の合併なくリハビリテーション後、第 47 病日に退院となり社会復帰できた。
病院前 12 誘導心電図伝送により、速やかなアンギオ室の立ち上げと ECPR の導入、さらにVF 持続下であっても冠動脈二枝閉塞による心筋梗塞の責任病変の同定が可能であった症例を経験したため報告する。


クラウド救急医療連携システムで実現する複数機種の除細動器から12 誘導心電図と画像の伝送

【一般演題】15:00-15:50

笠松 眞吾 1)、森田 浩史 2)、宇隨 弘泰 3)、木村 哲也 1)
1)福井大学医学部救急医学, 2)福井大学医学部附属病院 救急部,3)福井大学医学部循環器内科

【背景】2013 年から総務省 SCOPE と消防防災科学技術研究推進制度の支援を受け自主開発したクラウド救急医療連携システムとモバイル 12 誘導心電計を組み合わせ福井県、石川県、京都府舞鶴市にて運用している。活用が進んでいる石川県では令和3年度末で医療資源が豊富な金沢市近郊を除外した流出型医療圏の人口カバー率は、全県域で 77%に達している。特に救急医療体制と急性心筋梗塞対応が厳しい能登中部と南加賀医療圏では、ほぼ 100%を達成した。しかし、最も3次救急病院への搬送時間がかかる能登北部医療圏では地域の事情により普及が進んでいない。地方では搬送に長時間を要するため搬送中の急変や CPA に備えてモニター付き除細動器の救急車への配備が急速に進んでいる。
【現状】従来の病院への伝送方法は、心電図をメールに添付して伝送する方式が主であった。メール方式では、病院側の受信管理が煩雑になることに加えサイバーセキュリティに重大な欠陥がある。救急現場では、心電図と画像及び位置情報を救急隊と複数の病院が一元的に同じシステムで情報を共有し操作及び管理することが重要である。そこで 2022 年に ZOLL X シリーズをモバイル 12 誘導心電計と同じ操作で病院に伝送することを可能にした。病院側は、同じ画面操作で受信可能になっている。
【目的と方法】伝送待ち時間や解析時間の更なる短縮と心電図に加えてバイタルサインなど生体モニタ ーから得られる生体情報も伝送したいという要求が救急現場から寄せられたことから、従来の機種に加え新たに半自動除細動器 デフィブリレータ EMS-1052 カルジオライフ(日本光電株式会社製)から簡便に病院へ伝送する機能を開発しシステムに搭載した。
【結果】操作は、心電図やバイタルをタブレットに転送し位置情報を付与し救急画像と同様に病院を選択し伝送する。同時に救急隊本部の救急指令用 PC にも情報共有される。EMS-1052 は、除細動機能に加え各種バイタル収集装置がオールインワンで小型化と軽量化を実現しているため、現場から車内へと継続的な観察が可能である。モバイル 12 誘導心電計だけでは不可能であった血圧や SPO2、EtCO2 などのバイタルサインを組み合わせて正確な患者情報を病院に伝送でき的確なメディカルコントロールを実現した。
【考察】モニター付き除細動器と従来のモバイル心電計と組み合わせて複数事案対応が可能になる。へき地での救急活動では、即時出動可能な救急車や医療資源が限られているため災害時や交通事故など複数傷病者の同時モニタリングが課題である。加えて救急隊が 12 誘導心電図や外傷などの状況を医師に伝える画像伝送は救命率向上に効果があり、ドクターヘリにおけるオーバートリアージ率の適正化につながることが期待される。


12 誘導心電図伝送システム導入による Door-in door-out(DIDO)時間短縮の効果

【一般演題】15:00-15:50

佐藤 誠
秋田県厚生農業協同組合連合会 北秋田市民病院

【はじめに】循環器内科 1 名体制の当院では 24H7D の Primary PCI 対応は困難であり、 STEMI 症例を隣接 2 次医療圏の地域救命センター病院に転院搬送することが多い。発症から再灌流までの虚血時間を最小限にするため、搬送元となる医療機関においては病院到着から転院搬送開始までの時間(door-in door-out time: DIDO 時間)を 30 分以内にするようにガイドラインの中には記載されているが 1)、DIDO に関する国内での報告はほとんどなく、過去の当施設での検証では DIDO 時間が 30 分未満だったケースは 1 例もなかった 2)。
【方法と結果】2023 年 1 月より北秋田 2 次医療圏の全 5 台の救急車には心電図伝送システム(SCUNA)積載が完了している。1 月から 11 月までの心電図伝送例を行った救急搬送例のうち、病院到着前に ST 上昇が確認された AMI 症例は 4 例(男性 3 例、平均年齢 75 歳)であ った。これらの症例の Door to balloon time(D2BT)、FMC to balloon time(FMCBT)、Onset to balloon time(OTBT)、及び転院例においては DIDO 時間を算出した。1 例は当院で緊急PCI を施行した。D2BT は 44 分、FMCBT は 64 分、OTBT は 172 分であった。3 例は転院搬送先での緊急 PCI となった。DIDO 時間は平均 21 分、D2BT は平均 48 分、FMCBTは平均 118 分、OTBT は平均 160 分であった。
【考察】転院搬送 3 例の DIDO 時間はいずれも 30 分未満であり、過去の当院での DIDO時間検証と比べ明らかに短い。これにより転院搬送例も含め全例で FMCBT120 分未満を達成できていた。循環器内科常勤医 1 名の体制であっても患者搬入前の心電図伝送情報により、自施設での緊急 PCI 対応が困難な状況であれば、事前に他 PCI 対応病院への転院受け入れの相談、転院搬送同乗中不在中代行業務の手配、及び転院搬送に使用する救急車の手配などができるため、DIDO 時間短縮が得られているものと考えられる。
1)Kimura K, Kimura T, Ishihara M, et al: JCS 2018 Guideline on Diagnosis and Treatmentof Acute Coronary Syndrome. Circ J 83: 1085-1196, 2019
2)佐藤誠, 加澤隆康, 若木富貴: 地方の緊急 PCI 非実施施設における転院搬送のガイドライン未達成の実態. 日救急医会誌 32: 181-187, 2021


心原性ショックを伴う急性心筋梗塞における病院前心電図の有用性:K-ACTIVE Registry

【一般演題】15:00-15:50

松澤泰志1)、桐ヶ谷仁2)、海老名 俊明3)、日比潔4)、前田敦雄5)、明石嘉浩6)、 阿古潤哉7)、伊苅裕ニ8)、田村功一9)、並木淳郎10)、福井和樹11)、
道下一朗12)、木村一雄13)、鈴木洋14)

熊本大学病院 循環器内科1)、横浜市立大学附属市民総合医療センター 心臓血管センタ ー2)、横浜市立大学附属市民総合医療センター 臨床検査科3)、横浜市立大学医学部循環器内科学4)、昭和大学医学部 救急災害医学講座5)、
聖マリアンナ医科大学 循環器内科6)、北里大学医学部 循環器内科学7)、東海大学医学部付属病院 循環器内科8)、横浜市立大学医学部 循環器・腎臓・高血圧内科学9)、
関東労災病院 循環器内科10)、神奈川県立循環器呼吸器病センター11)、
横浜栄共済病院 循環器内科12)、横須賀市立市民病院13)、
昭和大学藤が丘病院 循環器内科14)

背景 :急性心筋梗塞診療における病院前12誘導心電図(prehospital-electrocardiogram: PH-ECG)の有用性は確立しているが、心原生ショックを伴った場合(acute myocardial infarction with cardiogenic shock: AMI-CS)においては不明である。そのため、AMI-CS における PH-ECG の有用性を検討することを研究の目的とした。
方法:神奈川循環器レジストリ(Kanagawa Acute Cardiovascular Registry: K-ACTIVE)から、救急車で搬送され緊急冠動脈インターベンションによって再灌流が得られた AMI-CS (Killip class IV)症例(n=542)を対象とした。院外心停止は除外した。患者を PH-ECG群(n=274)と非 PH-ECG 群(n=268)に分類し、救急隊接触から病院到着時間(FMC-to-door-time)、病院到着から治療までの時間、院内死亡率を比較した。
結果:PH-ECG 施行によって FMC-to-door-time は延長せず(25 [20-32] vs. 25[19-33] min, p=0.707)、病院到着から治療までの時間は PH-ECG 群で有意に短かった(door-to-device time: 74 [52-106] vs. 86 [62-122] min, p<0.001)。院内死亡率は PH-ECG 群で低い傾向が見られた(15% vs. 21%, p=0.094)。多変量ロジスティック回帰分析の結果、PH-ECG 実施は door-to-device time 60 分未満と独立して関連していた(オッズ比 [95%信頼区間]:1.69[1.13-2.53])。
結論 :AMI-CS 患者において、PH-ECG は病院到着までの時間を延長せず、病院到着からの早期の治療と関連していた。


ランデブーポイントで 12 誘導心電図検査を行い、伝送システムを用いてドクターヘリで医療機関へ搬送したST上昇症例の検討

【一般演題】15:00-15:50

小野寺誠 1)、三澤友誉 1)、塚田泰彦 1)、伊関憲 1)、八巻尚洋 2) 福島県立医科大学附属病院高度救命救急センター1)
福島県立医科大学医学部循環器内科学講座 2)

【はじめに】2022 年 7 月、福島県ドクターヘリと福島県立医科大学の間で 12 誘導心電図伝送システムの運用を開始した。
【目的】福島県ドクターヘリスタッフが 12 誘導心電図システムを用いて医療機関へヘリ搬送した ST 上昇症例の搬送状況、予後を検討すること。
【 方法】対象は 2022 年 7 月より 2023 年 6 月までの 1 年間に、福島県内で発生した胸痛をキ ーワードにドクターヘリ要請となった事案のうち、ランデブーポイントでドクターヘリスタッフによる 12 誘導心電図検査で ST 上昇を確認できた症例。発症から救急隊接触までの時間、救急隊接触時からランデブーポイントでのドクターヘリスタッフ接触までの時間、ランデブーポイントから受入医療機関までのおおよその直線距離および搬送時間、DTBT 時間、予後について検討した。
【結果】検討期間で条件を満たした症例は 8 例(男性 7 例、女性 1 例)で、年齢の中央値は 61 歳(範囲 54-86 歳)であった。発症から救急隊接触までの時間は 128 分(19-249 分)、救急隊接触時からドクターヘリスタッフ接触までの時間は 25.5分(16-34 分)であった。一方、ST 上昇を伝送後、ランデブーポイントから受入医療機関搬入までのおおよその直線距離は 39.6km(7.9-56.7km)であったが、搬送時間は 9.5 分( 7-20 分)と迅速であった。全例に PCI が施行され DTBT は 73.5 分(70-126 分)、全例生存退院していた。
【結論】12 誘導心電図伝送システムを導入していない地域であっても、ドクターヘリに本システムを導入することで連携医療機関への迅速な伝送・搬送は有効であり予後も良好であった。


異なる地域での12誘導心電図伝送導入経験
~搬送体制・伝送システム・伝送キーワードなどの比較~

【一般演題】15:00-15:50

石曾根 武徳
岩手県立中部病院

岩手県の面積は 15,280 ㎢で,日本の都道府県としては北海道についで2番目に広く,ひとつの病院がカバーする面積が広く搬送距離が長いのが特徴である.オンコール体制の病院がほとんどであり,緊急カテーテル治療の際に時間がかかり, door to balloon time(DTBT)が遅延するという問題がある.岩手県では,2014 年より 12 誘導心電図伝送システムの導入が進み,現在では岩手県のおよそ半分の面積で可能である.
私自身,2015 年に県立宮古病院で,2022 年に県立中部病院でそれぞれ 12 誘導心電図伝送を導入した.
県立宮古病院は 2015 年時点でカバーする人口が約9万人で,面積は 2600 ㎢と広いが,救急車受け入れ病院は同院のみであり輪番制はなく救急車全 11 台のほぼ全てを受け入れており,救急隊と病院が 1 対 1 の関係にある.PCI 可能なのは同院のみで, 12 誘導心電図伝送システムは Scuna を使用したクラウド式を採用し,キーワードはチャート式を採用している.一方,北上市にある県立中部病院は隣接する市町村を含めると面積約 2700 ㎢, 人口 22 万人ほどをカバーする地域中核病院で,動員以外にも救急車受け入れ病院は複数あり輪番制をとっているが PCI センターは当院のみである.心電図伝送は救急車に搭載されているモニターで12 誘導心電図の測定が可能であることを利用しそれを写真で撮影しメールで送るという方法をとっている.これによりシステム導入の予算が最小限で抑えられた.胸痛というキーワード式を採用している.
医療体制の異なるふたつの地域で導入した経験をもとに,輪番体制など地域の搬送体制,伝送機器や伝送方法,伝送キーワードの違いなどについて紹介し,それぞれのメリット・デメリ ットについて考えてみる.


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