第12回 12誘導心電図伝送を考える会 抄録集
第12回 12誘導心電図伝送を考える会 プログラム
13:00 | 13:00〜13:05 | 開会挨拶 野口 輝夫(国立循環器病研究センター副院長・心臓血管内科部門 冠疾患科部長) |
13:05 | プログラム 1 | 座⻑:⽥原 良雄(国⽴循環器病研究センター) | 12 誘導⼼電図伝送の現状
20 分 | 13:10〜13:30 | 講演1:ORION(大阪府救急搬送支援・情報収集・集計分析システム)を活用した12誘導心電図伝送に関する資器材の調達とMCプロトコルの進捗状況 ⻑嶺 秀則(吹⽥市消防本部) |
15 分 | 13:30〜13:45 | 講演2:即応性を高める12誘導心電図教育:大学における救急救命士養成課程の挑戦 久保 敦⼠(明治国際医療⼤学) |
13:45〜14:00 | 休憩(15 分) | |
14:00 | (各発表7分+質疑応答3分) | プログラム 2座⻑:野々⽊ 宏(⼤阪⻘⼭⼤学) 座⻑:藤⽥ 英雄(⾃治医科⼤学附属さいたま医療センター) | ⼤阪 北摂地域からの活動報告
7 分 | 14:05〜14:12 | 演題 01:⼤阪府 吹⽥市消防本部 吉⽥ 健太郎 |
7 分 | 14:13〜14:20 | 演題 02:⼤阪府 豊中市消防局 ⻄村 達也 |
7 分 | 14:21〜14:28 | 演題 03:⼤阪府 池⽥市消防本部 川島 昴 |
7 分 | 14:29〜14:36 | 演題 04:⼤阪府 箕⾯市消防本部 ⽥野 博康 |
7 分 | 14:37〜14:44 | 演題 05:⼤阪府 茨⽊市消防本部 若松 勇樹 |
7 分 | 14:45〜14:52 | 演題 06:⼤阪府 摂津市消防本部 永島 航 |
12 分 | 14:53〜15:05 | 総合討論 |
15:05〜15:20 | 休憩(15 分) | |
15:20 | (各発表7分+質疑応答3分) | プログラム 3前半 座⻑:⽯倉 健(三重⼤学)・花⽥ 裕之(弘前⼤学) 後半 座⻑:菊地 研(獨協医科⼤学)・⽯曽根 武徳(岩⼿県⽴中部病院) | さまざまな地域からの活動報告
10 分 | 15:25〜15:34 | 演題 07:和歌⼭県 ⾼野町消防本部 ⼀柳 保 |
10 分 | 15:35〜15:44 | 演題 08:三重県 津市消防本部 横⼭ 匠 |
10 分 | 15:45〜15:54 | 演題 09:⾹川県 ⾼松市消防局 三⽊消防署 丸尾 隆明 |
10 分 | 15:55〜16:04 | 演題 10:熊本県 有明広域⾏政事務組合消防本部 上⽥ 雄輝 |
16:05〜16:15 | 休憩(10 分) | |
10 分 | 16:15〜16:24 | 演題 11:神奈川県 横浜市消防局 ⼭形 秀樹 |
10 分 | 16:25〜16:34 | 演題 12:栃⽊県 栃⽊市消防本部 渡邉 訓啓 |
10 分 | 16:35〜16:44 | 演題 13:⻘森県 弘前地区消防事務組合 ⼩⼭内 健介 |
10 分 | 16:45〜16:54 | 演題 14:岩⼿県 花巻市消防本部 ⼩⼭⽥ 和彦 |
16:55〜17:10 | 休憩(15 分) | |
17:10 | プログラム 4 | 座⻑:⽥原 良雄(国⽴循環器病研究センター) 座⻑:武田 聡(東京慈恵会医科大学) | 総合討論:12 誘導⼼電図伝送の今後の課題と展望
20 分 | 17:10〜17:30 | 参加者全員 |
17:30 | 閉会挨拶 ⽥原 良雄(国⽴循環器病研究センター) | |
次期会⻑挨拶 ⽯曾根 武徳(岩⼿県⽴中部病院) |
プログラム1
講演1 ORION 大阪府救急搬 支援・情報収 ・ 分析システム を活用した12誘導心電図伝送に関する資機材の調達とMC プロトコルの進捗状況
吹田市消防本 警防救急室救急グループ 長嶺 秀則
大阪府では、傷病者の搬送及び受入れの実施基準(以下「実施基準」という)を効果的に実践するため、大阪府救急搬送支援・情報収集・集計分析システム(以下「ORION」)という)を運用している。現在ORIONは府下全消防機関、全救急告示医療機関(精神科単科を除く)で利用されている。ORIONには実施基準のアルゴリズムが搭載されており救急隊は傷病者の生理学的徴候、症状等を入力することで実施基準に沿った医療機関選定が可能となる。また、傷病者の病院前情報は診断名等の病院後情報と一括してシステム上に保持されるため、圏域毎に多面的な救急医療体制の状況分析が可能となり圏域の医療体制の改善に使用されている。
大阪府の12誘導心電図の伝送を行う環境整備は、令和4年度に「大阪府循環器病対策推進計画」が策定され、当該計画の中で取り組むべき施策の1つとして府下消防機関における12誘導心電図の導入促進を掲げ、令和4年9月にORIONの改修を行い、府下消防機関は12誘導心電図が伝送できる生体モニタを購入するだけで全救急告示医療機関へ伝送することが可能となった。一方、現在大阪府の病院前救護プロトコルでは、12誘導心電図測定や伝送について記載されておらず、府下地域MC協議会の実情に応じ、プロトコルの運用を検討するよう周知されているところである。以上を踏まえ、大阪府での12誘導心電図伝送に関する資器材の調達と府下地域MC協議会の実情について報告する。
講演2 即応性を高める12誘導心電図教育:大学における救急救命士養成課程の挑戦
久保 敦士 先生(明治国際医療大学)
12誘導心電図は、急性心筋梗塞や致死性不整脈を迅速に診断し、適切な治療を行うための重要なツールである。救急隊が病院前段階で心疾患を判断することで、治療の迅速化が図られ、患者の予後を改善する可能性が高まる。このため、救急救命士教育において12誘導心電図の習得は不可欠である。
本学では、現場対応力を備えた即戦力の救急救命士を養成することを目指し、体系的かつ実践的な教育課程を展開している。1年次にはBLS(Basic Life Support)を徹底して基礎的な対応力を養成し、2年次には外傷管理や救急救命士の特定行為を中心にスキルを強化する。3年次には、PEMEC(Prehospital Emergency Medical Evaluation and Care)基準に基づく実習などで対応力を高める。4年次では、総合想定訓練を通じ、臨床現場で即応できる実践力を総合的に評価している。
12誘導心電図教育は特に3年次および4年次で重点的に行われる。座学では、救急救命士テキストを基盤に理論を教授し、PACC(Prehospital Acute Cardiac Care)コースの内容を活用して実践的な知識を補完する。実技では、心電図の装着、心筋梗塞や不整脈の評価を通じ、現場での迅速な判断力を養成する。また、活動評価段階では救急隊活動を想定した訓練を行い、実践的な能力を確認する。これにより、教育の各段階で学生のスキルと即応性向上を目指す。
本講演では、12誘導心電図教育が救急救命士養成において果たす役割を論じるとともに、PACCやPEMECの活用がもたらす教育効果とその課題について具体例を交えて考察する。
プログラム2
演題1 大阪府 北摂地域からの活動報告 ~吹田市消防本部~
吹田市消防本部 吉田 健太郎
当市消防本部は、2008年から国立循環器病研究センターとの共同研究によりライブ方式(モバイルテレメディシン)による伝送を開始し、2017年に自動体外式除細動器(ZOLL X Series)から伝送できるシステムに変更し、全救急隊(13隊)から国立循環器病研究センターを始めとする市内4施設に伝送(2021年中459件)を行っている。2022年からは、大阪府のORION(大阪府救急搬送支援・情報収集・分析システム)に12誘導心電図伝送システム(以下、「ORIONシステム」)が搭載されたことにより、ORIONシステムを活用し府内全救急告示医療機関を対象に伝送を行っている。
ORIONシステムによる伝送は、救急車に必要不可欠な機材(自動体外式除細動器とスマートフォン)のみで行えるため、伝送の追加機器の必要はないが、限られた予算や物価高騰に伴う購入費用増大に対応するため、運用を維持する工夫が必要となる。当市消防本部では、救急車内の患者監視装置と自動体外式除細動器を兼ねた運用を行うことで、患者監視装置の購入費用や保守費用の削減を図り運用維持に努めている。
2008年から12誘導心電図伝送を取り入れた救急活動は、直近5年間で平均480件の伝送を行いスタンダードな活動となっている。その1例として、胸痛の訴えがない傷病者であっても、少しでも急性冠症候群を疑えば積極的に12誘導心電図測定を行い、有意所見を判断し伝送を行うことで病院到着時には緊急カテーテルチームが招集され早期治療開始に繋がったという奏功事例がある。 今後、喫緊の課題である救急隊員の若返りに対応するためにも、病院前救護における12誘導心電図測定と伝送の重要性について継続した教育を行うことで、質の高い救急活動を目指していきたい。
演題2 大阪 北摂地域からの活動報告 ~豊中市消防局~
豊中市消防局 西村達也
背景
当局では、心電図伝送対応除細動器の全救急隊への配備が完了したことから、「大阪府救急搬送支援・情報収集・集計分析システム(ORION)」による12誘導心電図伝送(以下、伝送とする)機能の運用を令和6年4月1日から開始し、伝送実施の判断は救急隊長に委ねたうえで市立豊中病院及び国立循環器病研究センターと連携している。しかし、新たに伝送操作が加わることから、早期搬送早期治療が必要な心疾患を疑う傷病者搬送の現場滞在時間延長や、伝送対象基準が定まっていないことが課題としてある。
目的
運用開始から半年が経過し、伝送による現場滞在時間への影響を検証し、現在の救急隊長の伝送対象基準を把握する。
方法
ORIONデータを分析し、令和6年4月1日から9月30日までに、救急隊が循環器疾患を疑い連携病院へ搬送した症例の中から、現場滞在時間への影響を検証するため搬送連絡1回目で病院決定した事案を対象に、伝送実施群と伝送未実施群の現場滞在時間を比較した。また、各救急隊長の伝送対象基準についてアンケート調査を実施した。
結果
対象症例数298件中、伝送実施群は90件(30.2%)で平均現場滞在時間は15分48秒、伝送未実施群は208件(69.8%)で15分02秒と、伝送実施群の方が46秒長かった。また、伝送対象基準については、全例実施や医師の指示があれば実施など、個人差が大きいことが判明した。
考察
現場滞在時間の延長は46秒であり、伝送実施による影響は少ないことがわかったが、医師の助言を基に伝送対象基準を明確化することで、各救急隊が活動へ具体的に伝送を落とし込みやすくなり現場滞在時間の短縮が図れるとともに、69.8%を占める伝送未実施群での有用な症例の取りこぼし防止に繋がると考える。伝送は院内治療開始までの時間短縮に繋がる可能性も考えられるため、これらについて取組み、適切な伝送運用を推進する必要がある。
演題3 池田市消防本部における12誘導心電図伝送の活用について
川島 昂(池田市消防本部)
(背景)
池田市は、大阪府の北部に位置し兵庫県と隣接する人口約10万3000人(2023年1月現在)の市である。令和5年中の救急出場件数は7,211件であり、過去最高件数となった。令和6年10月から5隊の救急隊を運用している。
(心電図伝送の進展)
12誘導心電図伝送については、令和4年からORIONシステムに伝送機能が追加されたことに伴い開始した。当初は一部の救急隊にのみ伝送可能な心電図モニターが配備されていたが、現在は5隊のうち4隊に伝送可能なモニターが配備されていることにより、実施件数は増加している。また来年度には全救急隊での伝送が可能となる予定であり、さらに増加が見込まれる。それに伴い、救急隊は迅速かつ正確な心電図伝送を実現するため、測定にかかる時間短縮を目的として、通報内容から予測した事前準備や携帯端末操作の習熟、定期的な12誘導心電図測定研修を行っている。
(奏功事例)
奏功事例として、76歳女性の急性心筋梗塞と脳卒中の合併症例が挙げられる。この症例では、観察結果から脳卒中が強く疑われたが、バイタル異常から循環器疾患も考慮し12誘導心電図を測定したところST変化が認められた。12誘導心電図伝送を行いながら国立循環器病研究センターへ連絡を行ったことにより、複雑な病態を医師と迅速に共有し、病院到着後の早期治療に繋げることができた。
(今後の展望と課題)
当消防本部では、12誘導心電図伝送を一部の病院に対してのみ実施しているが、今後はより多くの病院に対して伝送を行うことで、より質の高い救急医療が提供できると考える。一方で、救急隊員のスキルの課題もあり、習熟度を向上させることが求められる。12誘導心電図伝送は、迅速な情報共有により病院連絡の短縮と、早期治療のための医療機関の準備を可能とする。この有用な機能を100%活用するため、医療機関と救急隊が相互に連携し高めあっていけるよう、今後も取り組んでいきたい。
演題4 大阪 北摂地域からの活動報告 ~箕面市消防本 ~
箕面市消防本部 田野 博康です。
箕面市は、大阪北部の中央に位置し、南は市街地、北には山間部を有します。管内には、豊能町を含みます。
人口は、箕面市と豊能町、合わせて157,306人です。
箕面市消防本部は、7台の救急車を常時運用し、令和5年の救急件数は9,797件、搬送人員は8,973人でした。
救急医療機関は、箕面市立病院が市内中央に位置し、市外医療圏域内に国立循環器病研究センターをはじめとした、多くの二次及び三次医療機関が隣接しています。
心電図伝送を始めたきっかけは、令和4年10月に国立循環器病研究センターへ搬送した際、担当医から心電図伝送を実施すると、今より早期に評価し病院での受け入れ態勢も充実すると説明を受けたことです。当時、私は救急業務を担当していたので、所属へ働きかけ、まず検証態勢を構築、並行してマニュアル作成を行い、翌年1月より全隊で運用を開始しました。
運用後では、医療機関での受け入れ態勢が早期に構築できるようになったとお聞きしていますが、救急隊としても、心電図の判断に知識と経験に頼るだけではなく、それぞれの事案に医師の正確な助言を受けることで、精度の向上はもとより、救急隊のスキルアップに欠かせないものとなっています。
現在は、使用方法がマニュアル化で共有できており、訓練で確認、維持に努めています。
運用開始からの記録・伝送の実績は、201件です。
奏功例としては、86歳女性、主訴が胸痛。四肢、胸部誘導でST変化あり、国立循環器病研究センターへ連絡、心電図を伝送し搬送。接触から再灌流まで64分で、心電図伝送から医療への連携が奏功した症例です。
課題は、通信が悪い地域において取り込み、送信ができずリアルタイムで提供ができないことがあります。今後は、伝送した心電図を直接、医師に評価を受け助言などがもらえるような取組も可能ではないかと考えます。
演題5 12誘導心電図伝送導入後の活動報告 ~茨木市消防本部~
茨木市消防本部 下穂積分署 若松 勇樹
(はじめに)
茨木市は大阪府北部に位置し北は京都府亀岡市、東は高槻市、南は摂津市、西は吹田市と箕面市に接する人口約287700人の都市である。当消防本部は8隊の救急車を運用し、2023年度の救急出場件数は約18700件となっている。
(伝送開始)
12誘導心電図伝送については隣接市にある国立循環器病研究センターの勉強会を通じて有用性を教えていただき、早期再灌流療法は患者の生命予後改善に重要であるとして2022年8月1日から使用を開始している。
(伝送実施後)
伝送開始後にメリット、デメリットの意見があった。メリットは傷病者の治療に直結することが挙げられ、デメリットは救急隊の操作や理解不足によるものが挙げられた。
(結果)
伝送を実施した事案の内、心筋梗塞確定診断がなされた事案で、傷病者接触時間から現場出発時間、接触から心電図波形を測定した時間、心電図波形測定から電話交渉開始時間に注目した。この時間から現場で心筋梗塞を疑い早期搬送できているか。心電図測定手技及び心電図波形の評価時間はどれくらいかを計測した。
心筋梗塞確定傷病者の現場到着時間から現場出発時間は約10分、その中で問診、情報収集、バイタルサイン測定、12誘導心電図測定と伝送、傷病者搬出、医療機関交渉などを実施し、心筋梗塞を疑い適切な医療機関に搬送できていた。
また、2022年から2024年の救急搬送事案の現場到着時間から現場出発時間の平均時間は約18分であった。
(考察)
心筋梗塞を疑った際に12誘導心電図を測定し、評価し伝送することで医師の適切な診断により早期受入れ及び搬送に繋がっている証明となった。
(今後)
使用頻度が増えることで更に適切な医療機関へ搬送でき、医師の早期対応により、市民の生命予後改善に繋がると考える。
演題6 摂津市
摂津市消防本部 救急救命課 救急救命士 永島 航
【目的】
摂津市消防本部では循環器疾患を疑った場合、12誘導心電図を測定しております。
今回発表いたします事例は、胸痛を訴えたのち、意識障害を呈して救急要請があったものです。現場での心電図の測定結果を搬送先病院に伝えることで病院到着前に治療方針の判断材料となり、早期治療につながったものです。現場における12誘導心電図測定の有用性を伝えるためにご報告いたします。
【症例】
令和6年5月某日運送会社事務所内において、50代男性が倒れ意識なし呼吸ありの意識障害にて消防隊と同時出場する。
傷病者は事務所内に座位でおり意識レベルは改善していた。発症時の記憶は曖昧であった。傷病者から胸部の不快感の訴えがあり携行していたAED(12誘導測定、伝送機能なし)で心電図を測定したところⅡ誘導でST上昇を認めた。誘導を切り替えⅠ誘導、Ⅲ誘導の評価をするもST変化は認められず再度Ⅱ誘導に切り替えたところST変化は消失していた。車内収容後のバイタルサインは、意識レベルJCS1(E4V4M6)、呼吸数20回、心拍数54回、血圧111/78㎜Hg、SPO2:99%、体温35.9度既往歴はなかった。12誘導心電図波形も明らかなST変化及び不整脈は認めなかった。
初診時傷病名は冠痙縮性狭心症 中等症 でHCUに入院となり服薬で今後治療をしていく運びとなった。
【結果・考察】
意識障害を呈した傷病者の情報収集は困難でありますが、今回は接触時から傷病者の意識状態が改善していたため胸部の不快感の訴えから初期評価と併せて心電図の測定が行えました。接触段階において心電図を測定していなければ病院選定に苦慮していた症例であり、結果的に接触段階における心電図測定が病院選定、院内における治療方針の確立へと繋がった症例でした。
本市では12誘導伝送システムを未だ導入しておりません。諸課題が様々あるため各医療機関様、導入済みの消防本部様のご意見を頂戴できれば幸いです。
プログラム3(前半)
演題7 救急車内の映像を管内一次救急医療機関に伝送するシステムの構築について
高野町消防本部 一柳 保
【背景】当消防本部は世界遺産高野山を管轄しており、2,600人の町に年間140万人の観光客が各国から訪れる。管内に救急告示医療機関として診療所が1施設あるのみで、入院加療が必要な傷病者は管外搬送(527件中373件が管外へ搬送、令和4~5年中データ、以下同じ)を余儀なくされ、医療機関収容まで長時間になる(管内:管外、平均31.2分:78.9分)。緊急度の高い傷病者では、診療所で初療を行い、バイタルの安定化を行って転送することもある(9件)。そのため、診療所からの医師が同乗しない転院搬送(70件)を含め、搬送中の隊員の心理的負担は大きい。【目的】1.診療所で収容可能な病状を、映像を付加して伝達することで管内医療機関での救急業務完結の精度を高める。2.長時間搬送中も傷病者をリモートで医師の監視下に置き、隊員の心理的負担の軽減と容態変化に対する医師の指示を迅速化する。【方法】救急隊員と診療所の医師を繋ぐ専用のコミュニケーションツール(Allm Inc. Join/JoinTriage)と映像伝送システム(Join EMS)を導入し、消防の指令室を含めた閉鎖的ネットワークを構築する。【結果】令和6年8月に運用を開始し、11月末までに22件の映像伝送を行い、うち8件で12誘導心電図を伝送した。このうち12誘導心電図伝送により特に奏功した2事例を経験した。【事例1】69歳男性 朝から続く胸痛 12誘導心電図の結果と顔色の具合などを映像で医師と共有し診療所でも診察可能であることの判断材料になった。【事例2】61歳女性 AMIを疑って管外の医療機関へ搬送中の傷病者で、Joinにより観察を行っていた管内診療所医師から、SpO2値が安定化しないためプレショックと判断し、静脈路確保の具体的指示がだされた。【考察】本システムにより救急医療の効率化と隊員の心理的負担軽減の目的を達成した。今後は、他の医療機関へのネットワーク拡大に向けて、医療機関側の協力を積極的に働きかけ、より包括的な救急医療支援システムの構築を目指したい。
演題8 12誘導心電図伝送の当地域における背景と奏功事例について
〇横山匠1)、石倉健2)
1) 津市消防本部
2) 三重大学医学部附属病院 高度救命救急・総合集中治療センター
【背景】
津市は三重県中央部に位置する人口約27万人の都市である。心疾患疑い傷病者に対して市内の3医療機関で循環器輪番体制を構築している。
2007年に12誘導心電図伝送装置(FAX型)を導入、2013年には全車両に積載完了(モニタ型)し、2017年にはクラウド型伝送システムに一斉更新した。
導入前は傷病者の病院到着後に検査を開始、その後専門治療チームを招集していたが、現在は救急隊が現場から伝送した心電図を専門医が直接判読することで傷病者の病院到着前に専門治療チームを招集可能であり、治療開始までの時間が大幅に短縮されている。
当地域ではプロトコルに基づき、胸部不快感等、心疾患を疑った場合は12誘導心電図を記録・伝送することとしている。昨年度の伝送件数は918件で救急搬送人員15,740人の5.8%である。
【症例】71歳男性、15時00分ごろ屋外作業中に突然、胸痛と冷汗を発症し、15時31分、自身で救急要請し、ドクターヘリは覚知時要請された。現着時症状は改善傾向で傷病者は搬送を辞退したが、救急隊は検査が必要と説明し同意を得た。呼吸20回/分、SpO2 98%(大気下)、脈拍数 120回/分、整、血圧189/136 mmHg、12誘導心電図はⅡ、Ⅲ、aVFでST上昇あり伝送実施、意識清明、体温35.9℃。ドクターヘリ搬送時には既に循環器チームが立ち上がっており、急性下壁心筋梗塞の診断で17時01分初回の血栓吸引治療が施行された。入院14日目に独歩退院となった。
【考察】現在、救急救命士は病院収容後や事後検証で12誘導心電図判読を学習しているが、さらに教育を充実し、救急救命士の能力向上を目指すことは、傷病者の予後改善につながる可能性がある。
演題9 香川県における救急映像等伝送システムの運用と救急隊員教育の現状や課題について
松市三木消防署 救急係副主幹 丸尾 明
【はじめに】香川県では2012年4月から広域災害・救急・周産期医療情報システム(以下、「医療Netさぬき」という)の運用を開始した。その後のシステム改修により、2018年4月から 12 誘導心電図伝送を含む救急映像等伝送システム(以下、「伝送システム」という)が実装され、現在に至っている。今回、本県における救急映像等伝送システムと救急隊員教育の現状や課題について報告する。
【現状】本県では、「急性冠症候群疑いの傷病者に対する活動指針」をプロトコルとして定めている。12誘導心電図を緊急PCIが実施可能な医療機関へ積極的に心電図伝送を行い、異常所見を医師がいち早く確認することで、治療に至る時間短縮が図られている。
【課題と救急隊員教育】伝送システムは、急性冠症候群が疑われる傷病者の所見をいち早く伝える重要な情報伝達ツールであるが、傷病者の所見や、心電図の異常所見を見極めるために必要な知識の習得と、その質の担保が運用する救急隊の課題となる。
本県では、MC検証医師がシナリオを監修し、医学的な質が担保された教育資料を作成。県下で統一した救急隊員教育体制を確立、指導救命士が中心となり、日常的な教育を実施することで、知識の習得とその質を担保する取組みを行っている。
【結語】伝送システムを活用し、12誘導心電図の伝送を積極的に実施している。
12誘導心電図の伝送を行うことで、医師がいち早く異常所見を確認でき、治療に至る時間短縮が図られる。
救急隊員に異常所見を見極めるための知識の習得とその質を担保することが課題となる。
医学的な質が担保された資料を用いて指導救命士が中心となり、教育を行い、その質を担保している。
今後も、救急隊員の質及び伝送システムのアップデートを繰り返し、質の担保に務めていく。
演題10 病院前救護における医療従事者間コミュニケーションアプリを活用した画像伝送実証実験
熊本県 有明広域行政事務組合消防本部
上田 雄輝
当消防本部は熊本県北西部に位置し、北は福岡県大牟田市、南は政令指定都市の熊本市に隣接する管轄人口約15万人の自然豊かな地域であり、10台の救急車を運用し、救急出動件数は年間約9,000件となっている。当消防本部管内の救急医療体制として、2次医療機関が3施設で約5,000件を管内2次医療機関に収容している現状である。また、3次医療機関は熊本市内に集中しており、搬送時間は当消防本部管内から1時間程度要し、遠距離搬送しなければならない地域である。
JRC蘇生ガイドライン2020に推奨と提案としてSTEMI(ST上昇型心筋梗塞)が疑われる成人傷病者には、病院前12誘導ECGを記録して病院へ事前に伝送または通知することを推奨する(強い推奨、エビデンスの確実性:低い、Grade 1C)とされていることから、熊本県メディカルコントロール協議会病院前救護DXワーキンググループにおいて病院前救護における傷病者情報を汎用性のある伝送ツールを活用し、12誘導心電図を始め、現場状況、損傷部位、その他の情報を伝送し、医療機関と消防の情報共有の有効性の有無を検討することとされた。
これを踏まえ、令和5年10月から令和6年3月までを期間として、熊本大学病院、熊本県内3次医療機関、熊本県内の3地域の消防本部(天草消防本部、阿蘇消防本部、有明消防本部)および基幹病院が参画し、医療従事者間コミュニケーションアプリ「Join」を活用して実証実験を行った。この実証実験で病院側、消防側の視点から見えた効果と課題、今後の展望について報告する。
プログラム3(後半)
演題11 横浜市消防局の12誘導心電図の伝送状況等について
横浜市消防局 救急指導課 山形 秀樹
横浜市消防局は、令和6年12月現在、87隊の救急隊を運用しており、すべての救急車に12誘導心電図を積載しています。心電図伝送の導入から約25年が経過し、現在は車内のタブレット型パソコンと12誘導心電計を連携させ伝送するシステムとなっています。
平成8年の導入当初は、12誘導心電計の使用は、心電図データを消防司令センターに伝送し、常駐している救命指導医が心電図波形を解析し、所見を救急隊に助言として伝えることで、適切な病院選定につなげることを目的としていたため、使用実績は多くありませんでした。平成22年から、伝送に限らず観察に使用が可能となり、12誘導心電計の使用実績が飛躍的に増加し、また、平成31年からは、横浜市内の急性心疾患救急医療体制参加医療機関(23医療機関)に伝送先が拡充されたことで、心疾患の傷病者の心電図波形が早期に搬送先医療機関と共有できる体制が確立されました。
心電図記録の基準は、「胸が締め付けられる痛みがあったが、救急隊到着時に痛みが治まっている等の所見を認めた場合、急性冠症候群(ACS)の疑いありと判断し、意識のある仰臥位可能な傷病者について、傷病者等の同意を得て12 誘導心電図を記録する。ただし、ショック症状を認める傷病者は、12 誘導心電図記録にとらわれることなく早期搬送する。」と救急活動要領に定めています。 当局の心電図伝送の運用の現状や、奏功事例などを発表し、救急隊が行う心電図伝送の今後の展望等につながると幸いです。
演題12 栃木市消防本部で12誘導心電図伝送を導入した効果
栃木市消防本部 渡邉訓啓、西部 誠、中村 聡
獨協医科大学病院 救命救急センター 菊地 研
栃木市は栃木県南部に位置する人口約16万人の都市で、江戸・明治時代の蔵造りの家屋が保存されていることから「蔵の街」として知られ、映画やドラマのロケ地としても人気を集めている。当消防本部は、鹿沼消防、日光消防、石橋消防および獨協医科大学病院とともに下都賀地域メディカルコントロール(MC)協議会を構成し、2024年4月現在、定員204名、うち救急救命士57名を擁し、7台の救急車を運用しており、2023年中の救急件数は8,043件に上る。2012年10月より獨協医科大学病院救命救急センター(D-ECCC)への12誘導心電図(12ECG)伝送を開始し、2024年10月末時点で3,297例の伝送実績がある。
12ECG伝送の導入当初は、3タイプの伝送装置を3台の救急車に搭載して運用していたが、その後、使い勝手や維持費を考慮し、現在ではワイヤレス心電計(wECG)とスマートフォンによるメール送信を組み合わせたシステムを全7台の救急車に導入している。
この12ECG伝送の導入により、D-ECCCとの情報共有が可能となり、顔の見える関係が構築された。On-the-Job Training(OJT)を通じて、救急救命士に加え、消防隊を兼任する救急隊員も急性冠症候群(ACS)の理解を深め、電極装着を迅速に行えるようになり、伝送開始までの時間短縮を実現している。地域MC協議会の事後検証会では、「12ECG伝送が功を奏した症例」を共有し、ACS患者の接触からカテーテル治療による再灌流までの時間(EMS-to-Balloon Time)の短縮を目指した取り組みが強化された。また、救急救命士らは学会や研究会で12ECG伝送の有用性を積極的に発表し、その一部は論文化されている。
このように、12ECG伝送の導入はD-ECCCとの連携強化やEMS-to-Balloon Timeの短縮に寄与するとともに、救急隊員の知識向上を促してくれている。現在、新たに12ECGを伝送できるモニタリング除細動器を導入し、wECGとの併用を検証していく予定である。当消防本部では12ECG導入を含めた活動を通じ、地域医療のさらなる発展に貢献したいと考えている。
演題13 青森県弘前地域における12誘導心電図記録・伝送の現状と課題
弘前地区消防事務組合 小山内 健介
弘前地区消防事務組合管内の人口は2024年4月現在約263,000人である。三次医療機関、PCI可能医療機関は弘前大学医学部附属病院である。
2015年から12誘導心電図測定が可能になったが、除細動器に12誘導心電図測定及びメール伝送機能が付くようになってからは、救急車に12誘導心電図測定可能なベッドサイド型モニタが積載された頃よりも12誘導心電図を測定するようになった。さらに、伝送アプリ「Join」の導入により、詳細な測定結果を即時に共有できるようになった。
Joinによる伝送は、医療機関に連絡する際、傷病者の訴えやバイタル測定結果だけではなく、医学的な検査結果を情報共有できることとなり、適切な医療機関への搬送に貢献している。伝送は「見る情報」の共有であり、電話等を使って言葉で伝えるよりも速やかに的確に伝えることができる。
Joinの運用に関しては、病院側が導入したことにより消防救急側の導入が円滑に進んだ経緯がある。導入及び維持経費は安価で、消防側は専用のサーバーを購入する必要はない。青森県内では主要な医療機関に導入が進んでおり、大規模災害時に共有するためのツールとして活用が期待されている。
急性冠症候群の搬送に占める12誘導心電図測定の割合は増加しており、中には、心原性心肺停止事案において、除細動バッド貼付してのDC後、12誘導心電図測定するなど、病着後のPCI施設搬入に貢献している。
今後の課題は、消防救命士によって測定判断にばらつきがあるため、測定を標準化するための対策として、県で策定している救急搬送受入実施基準の中に12誘導心電図測定を含めるように進めたい。一方で病院側は、病院前での12誘導心電図測定状況を循環器内科専門医師が把握しきれていない懸念があり、病院搬入後も測定するといった場面が散見され、重複なくPCI施設に搬入されるようにしたい。
演題14 岩手県中部医療圏における12誘導心電図伝送の取組みについて
花巻市消防本部 警防課 小山田 和彦
岩手県中部医療圏は岩手県の中央部に位置し、消防本部は3消防本部(単独2、組合1)で構成され、医療圏の人口は約21万人である。
PCI対応が可能なのは基幹病院である県立中部病院のみで,救急における心疾患傷病者のほとんどを受け入れている。
心電図伝送の方法は、救急車積載のベッドサイドモニターで心電図測定を行い画面に表示される心電図をスマートフォンで写真撮影し、電子メールで医療機関のタブレットに送信する方式を採用している。
当市消防本部では令和5年8月に運用を開始し、既存の機器を使用することからイニシャルコストがなく、ランニングコストについても安価であり小規模消防本部での運用が容易である。また、画面をそのまま送信するため医師による心電図の判読についても問題はない。
当市における運用状況であるが、運用開始から令和6年10月31日までの1年2か月で136人の傷病者に対し伝送を行い、うち39人が虚血性心疾患と診断されており、DTBT時間の遅延による傷病者への不利益が生じないように適切な運用と事後検証が行われている。
令和6年10月からは岩手医科大学附属病院循環器内科の協力のもとに同じ方式による運用を開始している。これは救急現場からの搬送距離を考慮して2つの医療機関をすみ分けしたもので、県立中部病院の負担軽減と岩手県の少ない医療資源の有効活用を目的としている。
運用後の課題は、キーワード方式を採用しているが救急隊判断で伝送を行わない事案が散見されるほか、測定準備や伝送に時間を要すなど現場活動時間の遅延が認められる。 心電図伝送の有用性や効果は明らかになっていることから、救急隊員教育による質の向上を図るとともに、伝送方法を「JOIN」や[SCUNA」などのクラウド方式へ移行することにより効率化を図っていく。