第3回 12誘導心電図伝送を考える会 抄録集

目次

第3回 12誘導心電図伝送を考える会 抄録集

一般演題 1-1  モバイルクラウド心電図による地域循環器救急病病連携システムの構築

藤田英雄、百村伸一、永井良三

自治医科大学附属さいたま医療センター

 急性冠症候群では、わが国の地域医療圏において二次病院経由症例が少なくないことから、PCI施行施設単体の成績の向上に加え、地域全体において再灌流時間短縮の仕組みが症例の予後改善に繋がる可能性があり、検証の必要がある。
 われわれは先に 12 誘導心電図を遠隔地で瞬時に同時共有できる「モバイルクラウド心電図 (MCECG)」を開発し、実救急医療フィールドにおいてドクターカーに搭載し ST 上昇型心筋梗塞 (STEMI) 症例の虚血時間短縮効果が得られることを示した。今回更に、地域医療圏において MCECG による循環器救急医療の病病連携システムを再構築し、臨床的効果を検証する。
 人口 122 万人を擁する埼玉県さいたま市の一翼を担うわれわれの施設では発症から救急車経由で直接搬送される症例は一部にとどまり、二次病院を経由してくる症例が多数を締める。そこで循環器救急を軸とし 12 誘導心電図を共有する新たな形の病病連携が重要と考えられ、「さいたまクラウド心電図プロジェクト」を策定し実施する。このプロジェクト概要について呈示する。

一般演題 1-2  スマートハートTMを用いた12誘導心電図伝送の試み 
導入に向けての取り組みと準備

諏訪 哲、喜多村健一、青木映莉子、海老名秀城、園田健人、礒 隆史、設樂 準、國本充洋 小西宏和、坪井秀太、荻田 学

順天堂大学医学部附属静岡病院 循環器科

【目的】スマートハート™を用いた 12 誘導心電図伝送を確立するために当院と下田地区消防組合下田消防本部との取り組みと準備を検証し、現段階での課題を明らかにする。

【方法】下田地区消防組合に配備されている救急車5台(予備1台)にSHL Telemedicineが開発した個人用ポータブル心電計のスマートハート™と多機能携帯電話を搭載し、12誘導心電図を伝送する。当院の循環器科救急当番医が携帯端末を用いて所見を確認し、同時に救急隊よりの患者情報を電話にて受け取り、搬送先の決定や搬送手段及び緊急治療の準備等の手配を行う。この為必要な資器材の準備及び設定を行った。次いで下田地区消防組合、当院およびスマートハートジャパンでスマートハート™での 12 誘導心電図記録と伝送方法を救急隊員への周知を図るための説明会を複数回行った。一方で受信方法についても院内での講習を関係部署をも含めて施行した。

【結果】スマートハート™を用いての救急隊員による現場にての心電図記録と伝送方法及び手順等は容易に理解された。受診に際しての手配も同様に理解が得られた。また、複数部署での検討会の結果で以下の問題点が明らかにされた。ⅰ)スマートハート™の心電図記録に際して左上肢の着衣が電極と皮膚の接触を阻むことにより記録に支障を生じる恐れがある。此の為、特に冬場の厚着をしている症例では衣類の切断等を考慮する。ⅱ)スマートハート™の装着には患者の背中側に装着用の帯をまわす必要がある為、衣服の処理と上半身の一時的な拳上を要する。ⅲ)救急車の構造上患者の左側に十分な空間が無く、胸部誘導のV6の位置を確認する際に工夫が必要である。ⅳ)同時に心電図の伝送があった場合の対応が現時点では明らかではない。ⅴ)心電図を紙媒体へ記録する際の手数がかかる。

【結論】平成27年12月より運用開始に漕ぎ着けた。事案と症例を今後集積して実用上の課題と問題点を更に検討し、12誘導心電図伝送の普及に寄与する。

一般演題 1-3  当センターにおける急性心筋梗塞患者のタイムマネージメント

川上将司、田原良雄、野口暉夫、横山広行、野々木宏、安田 聡、小川久雄

国立循環器病研究センター 心臓血管内科

ST 上昇型心筋梗塞(STEMI)の患者においては、早期の再灌流療法は患者の生命予後改善に重要である。これまでもプレホスピタル 12 誘導心電図の活用によって、Door-to-balloon time や First medical contact-to-balloon time が短縮できることが主に海外からの報告で示されてきた。しかし海外に比べてPCI 実施施設までのアクセスが良好で、搬送時間の短い傾向にある我が国ではプレホスピタル12誘導心電図の普及は十分とは言えないのが現状である。

【目的】大阪府北部の吹田市に位置し、循環器疾患を中心とした高度専門医療機関である当センターでは、プレホスピタルでの患者情報の伝送にモバイルテレメディシンシステム(MTS)を運用してきた。MTSは12誘導心電図のみならず、血圧や心拍数などのバイタルサインや車内搭載モニターによる患者の映像情報をリアルタイムに継続して伝送することが可能であり、また優れたノイズキャンセル機能によって質の高い心電図波形を当センターの循環器専門医が診断することが可能である。この MTS を用いたSTEMIのタイムマネージメントを検証した。

【方法】今回2008年5月から2012年4月の期間に当センターに搬送されたSTEMI患者のデータベースを用いて、MTSを使用し救急搬送された患者、MTSを使用せず救急搬送された患者、非PCI実施施設を経由し搬送された患者の3群に分けてFirst medical contact (FMC)-to-device time 、Door-to-device time を比較した。

【結果】MTSを使用した群のFMC-to-device time、Door-to-device time の中央値はそれぞれ87分、58分であり、他の群より有意に短縮していた。

【結論】MTSを利用したプレホスピタル心電図伝送は再灌流療法までの時間短縮に有用である。

一般演題 1-4  宮城県における12誘導心電図伝送システムの導入

伊藤健太1)、高橋 潤1)、羽尾清貴1)、下川宏明1)、平本哲也2)、井上寛一3)

1 東北大学病院 循環器内科、2大崎市民病院 循環器内科、3みやぎ県南中核病院 循環器内科

【目的】急性心筋梗塞患者においては、心筋傷害を最小限にするため、発症から再灌流までの時間を短縮することが望まれている。その対策の1つとして、救急隊員によるプレホスピタル12誘導心電図および医療機関への伝送は、診療ガイドラインにおいても推奨されている。宮城県では、急性心筋梗塞患者の予後改善を目指して、12誘導心電図伝送システムの整備を進め、2015年6月から運用を開始した。

【方法】県内2地域をモデル地区とし、域内の全救急車に12誘導心電図伝送システムを装備した(図)。胸部症状を有する患者を収容した救急隊は、各地域の3次救急医療機関(大崎市民病院、みやぎ県南中核病院)へ12誘導心電図と車内映像を伝送する。伝送された情報は、東北大学病院でもリアルタイムで閲覧可能。東北大学病院は、必要時には助言を行う。また、発症から治療に至る時間経過をデータ化し、検証を行う。

【結果】2015年6~11月の半年間で、121件の12誘導心電図伝送が行われた。

【結論】宮城県では、2つのモデル地区において、12誘導心電図伝送システムを導入した。今後、データの検証を行う。

図.システムの概要

一般演題 2-1  救急車内でSTEMIを捉えた12誘導心電図伝送事例の検討

笠松眞吾1)、竹内 順2)、有馬雄二3)、宇随弘泰4)、木村拓也5)

1 福井大学医学部、2 嶺北消防組合 嶺北消防本部、3勝山市消防本部、4福井大学医学部 循環器内科、5福井大学医学部 総合診療部 救急部

【目的】福井大学が開発したクラウド伝送システムを共同研究機関の救急隊である勝山消防本部、嶺北消防組合と協力し、クラウド型救急連携システムを活用した具体的な効果事例の収集を行う。 【方法 】福井県勝山市消防本部、嶺北消防組合嶺北消防本部の救急車4台において、救急車からの12誘導の実証試験を行う。救急隊は、救急車内に要請者を収容後、速やかにAMIを疑い12誘導心電図測定を判断した。同時に対応可能病院への搬送を開始した。搬送中の車内にて電極を患者に装着し測定を開始した。

【結果】 平成27年4月より11月までの送信回数は、56回であった。送信テストおよびバイタル数値データの伝送を除いた救急隊からの12誘導心電図の有効伝送回数は、32回であった。 救急専門医による12誘導心電図の解析および遠隔診断後、直接搬送に至った事例で、症状があり追跡調査が可能な症例は、現在のところ19例であった。病院到着後の精密判定で急性心筋梗塞で有った症例は、1例であった。また、STEMI(ST上昇型急性心筋梗塞)症例は、上記の嶺北三国消防署からの搬送1例であった。12誘導心電図の送受信にかかった時間は、電極の貼り付けなどの必要な作業時間を除くと心電図1枚の伝送にシステムが費やした通信時間は、54回の平均で約1秒以内であり、ムダ時間は、最小であった。

【考察】STEMI症例を搬送要請先に到着し、搬送走行中の救急車内から12誘導心電図を測定し、クラウドに伝送が可能なことを実証する事ができた。また、STEMI患者の事例においては、搬送前に12誘導心電図波形を救急救命士と救急専門医が波形を互いに確認しながらメディカル・コントロールを適切かつ迅速に行う事ができた。同患者は、病院到着後 PCI 治療を循環器専門医からなる心カテチームがすみやかに行うことが出来たため、後遺症も無く術後の経過も良好であった。

【結論】12 誘導心電図を走行中の救急車内から送信する事で、搬送時間と、判定可能な心電図を両立できた。

一般演題 2-2  当院での12誘導心電図伝送システムを利用した循環器救急診療の試み

石曽根武徳、河合 悠、上田寛修、前川裕子、菊池利夫、村上晶彦

1 岩手県立宮古病院 循環器科

【はじめに】当院は岩手県宮古市にある病床数293床の総合病院であり、1市2町1村の人口約8万7000 人の圏域内唯一の地域基幹病院で、年間救急搬送患者は1800人程度である。しかし、平成19 年以降長らく循環器内科常勤医師不在の状態が続き、最寄りの盛岡市内の病院へ約2時間かけて救急搬送しなければならない状況が続いた。平成23年3月11日には東日本大震災により宮古市も甚大な被害を被った。そのような中で診療体制が徐々に整備され、平成25年4月から医師5人体制となり、同年9月から24時間体制で緊急時にカテーテル治療を行うことができるようになった。

【目的】12誘導心電図伝送の有用性が示されている中、当院でも平成27年10月より運用を開始した。開始して間もないが、開始前後の当院での状況をまとめ、有用性や改善点について検討した。

【方法】①平成27年1月~10月に、当院へ搬送された急性冠症候群(ACS)患者のうち、当院で入院加療を行った33名における、症状、診断名、door-to-balloon time(D2BT)などについて検討した。②また、12誘導心電図伝送された症例の症状、診断名などについて検討した。

【結果】①ACS患者の症状は33例中27例が胸痛であった。診断は、25例が急性心筋梗塞、6例が不安定狭心症、たこつぼ型心筋症と冠攣縮性狭心症がそれぞれ1例ずつであった。D2BTは平日の日中に限ると平均104分であった。②12誘導心電図伝送された症例が計15件あった。その内ACSの診断が1件、ACS以外の循環器疾患が4件、循環器疾患以外の症例が10件、緊急カテーテル検査を行った症例はなく、緊急搬送が1件であった。症状は、胸痛が9例で最も多く、意識消失や背部痛などもみられた。

【結論】導入してまだ2 ヶ月であるが、現時点での課題を把握すると共に今後件数の増加に伴い成果を上げるためのさらなる検討が必要と考えられた。文献的考察を加えて発表する。

一般演題 2-3  モバイルクラウド心電図伝送システムを利用、早期冠血行再建を 行うことで救命できた重症心不全の一例

三戸正人、秋元芳典、與座 一

ハートライフ病院 循環器内科

【はじめに】急性冠症候群(ACS)が疑われる患者では、病院前に12誘導心電図を実施しST 上昇が疑われた患者では受け入れ病院やカテーテル検査室に事前に連絡すべきとガイドライン2015では推奨された。 当院では病院前救急隊とも連携を開始しているが、病院内にも心電図伝送システムを導入し、院外待機の循環器内科医とも連携をとれる体制を整えた。

【症例】90歳代女性

【現病歴】多発性肺腫瘍、閉塞性黄疸のため胆管チューブを留置され他院通院加療中だが、入院前のADLは自立。入院当日未明に突然の呼吸苦で目が覚め救急搬送。来院時著明な低酸素血症を伴う重症心不全を確認、非侵襲的陽圧換気を開始し院内でモバイルクラウド心電図伝送システムによる12誘導心電図を実施、循環器内科当番医へ伝送。

【経過】前胸部誘導での広範なST低下とわずかにaVR、aVL誘導でのST上昇より多枝病変や左主幹部病変の関与した重症心不全と判断し、院外待機となっている緊急心カテチームをコールした。基礎疾患と年齢を考慮し、家族に十分にリスクを説明の上、緊急冠動脈造影を行うと右冠動脈は末梢(#3, #4AV)で 90、99%狭窄、左冠動脈は前下行枝近位部(#6,#7)に偏心性の90%狭窄、対角枝(#9)の完全閉塞、回旋枝は近位部(#11)で完全閉塞の三枝病変であった。ひきつづいて前下行枝(#6,7)、回旋枝(#11)へ PCI を施行し ICU へ入室。術後血管作動薬からの離脱は速やかで、心臓リハビリを行い第 19 病日に独歩退院となった。

【考察】12誘導心電図の読影については経験の浅い医師、救命士の判読するスキルを上げる努力も続けていくべきだが、非 ST 上昇型の心筋梗塞のなかに、より重症の三枝病変や左主幹部病変が含まれており、突然発症など臨床的にACSが疑われる症例では循環器内科への心電図伝送を今後もっと広めていく必要があるものと思われた。

パネルディスカッション-1  岩手県二戸圏域における 12 誘導心電図伝送システム導入の効果について

酒井敏彰1)、小野寺正幸1)、西山 理1)、松田繁勝2)、脇澤 忍2)

1 岩手県立二戸病院 循環器内科、2岩手県二戸広域消防組合

【背景】岩手県立二戸病院は、年間40~50名の急性冠症候群の患者が搬送されるが、循環器科の常勤医は3名しかいない。ST上昇型の心筋梗塞(STEMI)患者に対し、ガイドラインで推奨されているDoor to Balloon time(D2BT)を 90 分に抑えることは 非常に困難であった。しかし、H26年3月より岩手県で初めてプレホスピタル12誘導心電図を導入し、D2BTの短縮に成功した。H28年8月1日より二戸圏域すべての救急車に導入されることとなった。

【目的】H27年8月1日より二戸圏域すべての救急車に伝送システムを導入したことにより、当院へ救急搬送されたSTEMI患者に対するD2BT、総虚血時間について検討した。

【方法】H27年8月1日より二戸消防署管内すべての救急車に、12誘導伝送システム(伝送システム:ラブテック パソコン心電計 EC-12RSシリーズ)を導入された。 キーワード方式を用い、キーワードに合致する症状があれば、12誘導心電図を記録しメールに添付する形で二戸病院のタブレットとノートパソコンに伝送する。この伝送システムを使用し、平成27年8月1日から10月31日まで、岩手県立二戸病院へ救急搬送されたSTEMI患者5人のD2BT、総虚血時間について検討した。

【結果】伝送システムを利用した際のD2BTは平均67分、中央値は、70分で90分以内の達成率は100%であった。さらに、総虚血時間は、平均で248分であったが、中央値では106分で120分以内であった。伝送システムを利用しない場合、D2BTは、平均148分、中央値148分で90分以内を達成した例はなかった。総虚血時間も平均、中央値とも334分で120分を大きく上回っていた。

【結語】12誘導伝送システムを導入することで、医師不足にある地方病院でもDTBTを90分以内に抑えることが出来る。さらに、総虚血時間も短縮できる

パネルディスカッション-2  大分大学医学部附属病院での12誘導心電図伝送

下村 剛1)、重光 修2)、石井圭亮2)、和田伸介2)、竹中隆一2)、油布邦夫3)、高橋尚彦3) 、藤田英雄4)、横田勝彦5)

1 大分大学医学部附属病院災害対策室、2大分大学医学部附属病院高度救命救急センター
3 大分大学医学部附属病院循環器科、4自治医科大学附属さいたま医療センター循環器科
5 東京大学大学院情報学環

【目的】2012 年7 月より、モバイル•クラウド心電図システムを竹田市消防本部所有の救急車3台に搭載した。一旦、休止していたが、2015 年 10 月からの新システムの導入伴い、循環器科が積極的に参加した新たな連携システムを構築したので報告する。

【方法】救急隊員は、突然の胸痛などで急性冠症候群が疑われる患者に対し、クラウド心電図を装着してタブレット端末経由でクラウド上のサーバーへ心電図を伝送する。医師は、サーバーへアクセスすることにより、心電図情報を瞬時に確認するができる。病院内からだけではなく、自宅のパソコンや外出先からスマートフォンを用いて、オンコールの循環器科医師が心電図を確認して判断を行うこともでき、心カテが、必要と判断された場合には、患者の到着を待たずに準備を始めることが可能である。

【結果】クラウド心電図の取り扱いは簡便であり、救急隊員はすぐに使いこなせることができ、35 例の症例に使用して、急性冠症候群が8例で疑われた。この地域では、経皮的冠動脈形成術の行える施設がないため、速やかに救急隊の管轄外の救急病院へと搬送された。

【結論】救急隊が12誘導心電図を取り伝送することの有用性は高いと報告してきたが、科学的に根拠にかけることが懸念された。新システムでの実証実験で症例を積み重ねているところであるが、心カテ開始やrecoronary までの時間短縮を実証できると考えられる。

パネルディスカッション-3  病院前救護システムとしての心電図モニター 東京CCUネットワークからの提案

白石泰之、長尾 建、中村正人、原田和昌、小林義典、尾林 徹、吉野秀朗、磯部光章 吉川 勉、高山守正

東京CCUネットワーク学術委員会

【背景】 ILCOR 救急蘇生ガイドラインCoSTR2015 では、ST上昇心筋梗塞(STEMI)が疑われる成人患者には、病院前12誘導ECGを記録して病院へ事前通知することを強く推奨している。しかし、わが国において病院前12誘導ECG 記録は十分に普及しているとは言えない。

【方法】2013年に東京都CCUネットワークデータベースのうちCCUで治療した急性冠症候群例のデータを用いて、救急隊接触時のECGモニター(主にⅡ誘導)と、病院収容時の12誘導ECGから、救急隊の心電図読影との一致率、また救急隊でのSTEMI患者の同定がDoor-to-Balloon(DTB)timeに与える影響について検討した。

【結果】救急隊により搬送された患者は2499例で、その中でECGモニターを実施されたのは1884例(75.4%)であった。不適格例を除外後(1770例)、急性心筋梗塞の割合はSTEMI患者が1423例( 80.4%)、非STEMI患者が347例(19.6%)であった。STEMI患者の中で、救急隊が院外ECGモニター所見からST変化を認識出来たのは927人であった(偽陰性率:34.9%)。またしかし、ST変化を事前に評価できた群は、評価できなかった群(偽陰性群)と比較し、DTB timeに有意な差は認められなかった(中央値:64分 vs. 64分)。

【結論】STEMI患者において、院外ECGモニターでは1/3の症例でST変化を認識出来なかった。2020年東京オリンピックまでに病院前救護に12誘導ECGを普及させること、かつその連絡手法とCCU体制の迅速な連動が必要であると考えた。

パネルディスカッション-4  救急搬送時の12誘導心電図と伝送の重要性

川喜田匡1)、石倉 健2)、今井 寛2)、伊藤正明2)、星野康三3)

1 津市消防本部、2三重大学医学部付属病院、3永井病院

【目的】本市は、面積が710k㎡と三重県のなかで最も広大な面積を有し、東西に広く、東側は市街地、西側は山間部となっている。 地域によっては搬送にかかる時間が異なる中、レスポンスタイムの短縮には限界があり、その中で、より良い医療を提供し、救命率の向上を目的として、三重県地域医療再生計画事業を活用し、救急覚知から病院での治療開始時間までの短縮を図るため心電図伝送システムの導入及び循環器輪番体制の構築を目指すこととなった。

【方法】 12誘導心電図をインターネット回線で医療機関に送信し、医師と情報をリアルタイムに共有することを目的として、平成19年から平成25年にかけ津市消防本部の救急車すべてに積載が完了し、管内12誘導心電図伝送体制が確立された。 しかし、通常の輪番病院体制では、必ずしも必要とされる治療が受けられなかったため平成25年からACS(急性冠症候群)疑いの傷病者への対応として、PCI(経皮的冠動脈形成術)対応可能な 3 つの病院の協力を得て循環器輪番(受入)体制が構築された。 心疾患プロトコルに該当する傷病者に対し12誘導心電図を装着し、循環器輪番病院の中で直近となる病院に心電図伝送を行い、ACS疑いであれば、救急隊が病院到着するまでに、心臓カテーテルチームが招集され、すみやかにPCIを実施できるように医療体制が確保されるようになっている。

【結果】 循環器輪番医療体制を構築したことにより、病院選定に苦慮することがなくなり、現場からの心電図伝送によって病院側の決定的治療開始までの初動体制が早くなったことは、PCI が必要な ACS患者にとっては有用と評価できる。

【結論】 12誘導心電図・伝送システム及び循環器輪番体制を恒常的な体制としていくためには、各受入病院での心電図読影の常時運用体制の更なる充実、機器の計画的な更新、救急隊員のトレーニング等が不可欠であり、今後も医療機関関係者との連携強化を図っていくとともに、長期的なデータを収集し、検証を重ねていく必要があると思われる。

パネルディスカッション-5  12 誘導心電図伝送システムを導入後の救命救急センターとの 良好な連携

岩﨑哲也1)、柏﨑雄士1)、三浦克耶1)、中村聡1) 、菊地研2)、寳住 肇2)、和氣晃司2) 、小野一之2)

1 栃木市消防本部、2獨協医科大学病院救命救急センター

【目的】栃木消防本部は2012年10月より獨協医大救命救急センターへの12誘導心電図(12ECG)の伝送を開始し、これまでに約230例の伝送を行っている。この12誘導心電図伝送を通し獨協医大との関係性にどのような影響があったかを検討する。

【方法】開始当初は救急車1台のみで伝送を行っていたが、循環器専門医を招いた勉強会を通じてその有用性は浸透してきており、現在では全救急車7台のうち6台で伝送が行えるようになっている。そこで、現場で 12ECG 伝送に携わっている救急隊員への聞き取りおよび救命救急センターへ搬送する際の時間経過を調査した。

【結果】もともとドクターヘリ運用を通じて獨協医大救命救急センターとの連携は良好であったが、この 12ECG 伝送システムを導入して以降、その連携がさらに良好になっている。胸痛例での収容依頼時には「12 誘導心電図伝送」が共通言語として通用するようになり、通話時間の短縮に繋がっている。典型的な胸痛例では、日中では臆することなくドクターヘリを要請することができたり、夜間でも救命救急センターへの収容依頼に躊躇なく踏み切れるようになったりして、救急医や循環器医などの専門医ともいわゆる顔の見える関係が構築され、良好なコミュニケーションが行えている。事後症例検討会では、救急専従医から12ECG伝送により功を奏した症例の効果的なフィードバックを受けたりしている。また、本研究会を含めた学会などの、救急隊員だけでない医療従事者が集う意見発表の場へ参加することへ積極的な支援が得られるようになっていることもその表れであると思われる。その一方で、12ECGを伝送しても救命救急センターで確認してもらえないことがあったりするなどの改善点も挙げられる。

【結論】この12ECG 伝送システムを導入してからの3年間で、ドクターヘリ運用で培った救命救急センターとの連携はさらに良好になっている。

機器展示

旭化成ゾールメディカル株式会社

インフォコム株式会社

株式会社NTTドコモ 株式会社メハーゲン

株式会社グッドケア

三栄メディシス株式会社

日本光電工業株式会社

目次